
アームレスリングアジア選手権のメダリストである筆者が、その経験と実践をもとに腕相撲で必要となる筋肉部位と鍛え方を優先順位順に解説します。
腕相撲(アームレスリング)で動かす上半身の関節は手首だけ
肩関節と肘関節は完全に固定する

意外かもしれませんが、腕相撲(アームレスリング)で動かす部位(関節)は手首だけです。
上図のように、腕相撲では体幹の力をロスせずに手に伝えることが最も重要です。このためには、上半身の関節のうち「肩関節」と「肘関節」は完全に固定します。
そして、使う技や倒す方向にあわせて手首を屈曲または回旋させます。
ですので、腕相撲で必要となる筋肉のほとんどは「肩関節の肘関節を固定するための筋肉」であり、それに加えて「手首を動かす筋肉」が必要となります。
このことは、次の項目でご紹介するアームレスリングの2つの技とその動画を見ていただければお分かりいただけるはずです。
腕相撲(アームレスリング)の2つの技
トップロール(吊り手)とフック(噛み手)

腕相撲(アームレスリング)には大きく2つの技があります。
一つは上図左の後方に相手の手を吊り上げて倒す技「トップロール|吊り手」です。
もう一つは上図右の側方に相手の手を下敷きにして倒す技「フック|噛み手」です。
それぞれの技の典型的な動画をご紹介しますので、まずはご覧ください。
トップロールの実際の映像
フックの実際の映像
トップロール・フックのいずれにおいても、肩関節と肘関節は固定されており、手首関節のみが動いている様子がお分かりいただけるはずです。
それでは、次の項目からは腕相撲(アームレスリング)に必要となる筋肉部位と鍛え方を、その優先順位にそってご紹介していきます。
①前腕筋群

腕相撲(アームレスリング)において、圧倒的に重要な筋肉部位が前腕筋群です。
腕相撲において動かすのは手首だけですので、この手首を動かす(技を決める)ための筋肉である前腕筋群の筋力は非常に重要で、腕相撲の強さの「半分以上の要素」です。
アームレスリングは「前腕のスポーツ」とも呼ばれるのは、このようなことが理由です。

前腕筋群は上図のように、手首関節の屈曲(掌屈)・伸展(背屈)・外転(橈屈)・内転(尺屈)・回内・回外の作用を持ちます。
そして、これらのなかで腕相撲(アームレスリング)に重要となる動作は、その技ごとに以下のようになります。
トップロール(吊り手)に重要な手首の力
①相手の手を吊り上げるために自分の手首を立てる力=手首の橈屈
②吊り上げた相手の手をひねるために自分の手首を回す力=手首の回内回旋
フック(噛み手)に重要な手首の力
①相手の手首を下敷きにするために自分の手首を曲げる力=手首の掌屈
②下敷きにした相手の手をひねるために自分の手首を回す力=手首の回外回旋
腕橈骨筋と前腕屈筋群が重要

これらを踏まえた上で、腕相撲(アームレスリング)に重要な前腕の筋肉は腕橈骨筋(わんとうこつきん)と前腕屈筋群です。
実際に、筆者をはじめこの二つの筋肉を鍛えないアームレスラーはおらず、むしろこの二つの筋肉を鍛えることがアームレスラーにとっては日々のトレーニングの最優先事項となっています。

なお、具体的な腕相撲のための前腕筋群の鍛え方は、下記の記事で詳しく解説しています。
▼詳細記事
【前腕筋群・腕橈骨筋の自宅筋トレ方法】手首の強さに重要な鍛え方をアームレスラーが解説
②背筋群

腕相撲(アームレスリング)においては、上腕を背中を使って引きつけて固定する(肩関節の固定)ことも非常に重要で、特にトップロールにおいては極めて重要です。
上図を見ていただければ分かるように、背中の筋肉のなかでも広背筋は上腕骨に接合しており、背中全体で腕(上腕)を引きつけるための主働筋であることがわかります。
腕相撲の背中はパラレル懸垂で鍛える

腕相撲(アームレスリング)のための背中のトレーニングとして、もっともスタンダードなのが、この画像のようなパラレル懸垂です。
パラレル懸垂は体幹と上腕の位置関係が腕相撲の実戦と近く(脇を閉めた状態で引きつける位置)、とても有効です。
なお、総合的な広背筋のトレーニング方法については下記のページをご参照ください。
▼広背筋のトレーニング
【広背筋の鍛え方完全版】自重・ダンベル・チューブでの自宅筋トレからジムでの筋トレまで解説
③上腕二頭筋

上腕二頭筋は肘関節を固定するための主働筋となり、腕相撲(アームレスリング)に重要な筋肉です。

上腕二頭筋には長頭と短頭があり、構える角度と手首の動作に関連して、使う技によって重要な部位は違います。
トップロールで重要な上腕二頭筋長頭
トップロールでは親指が手前に向く位置で肘関節を固定します。この時に強く収縮に関与するのが上腕二頭筋のなかでも外側に位置する長頭です。
フックで重要な上腕二頭筋短頭
フックでは手首を巻き付けながら手首の回外回旋を行いますが、この回外回旋の作用を持つのが上腕二頭筋短頭です。
上腕二頭筋はダンベルカールで鍛える

腕相撲(アームレスリング)のための上腕二頭筋トレーニングは、腕相撲の実戦に近い「片手でトレーニングする」ダンベルカールで行うのがベストです。
各種ダンベルカールのやり方は下記の各ページをご参照ください。
④大胸筋

大胸筋は腕相撲(アームレスリング)の肩関節の固定において、背筋群をサポートするように働きます。
特に身体の前方で腕を固定するフック(噛み手)においては、大胸筋の重要度が上がります。
腕相撲のための大胸筋トレーニングでは、腕相撲の実戦の角度に近いよう、腕を肩より内側で動かすフライ系種目でトレーニングします。
各種フライ系種目のやり方は下記のリンク先ページで解説しています。
⑤上腕三頭筋

上腕三頭筋は腕相撲(アームレスリング)において、肩関節の固定に関与します。
上図のように、上腕三頭筋のなかでも長頭(赤の部分)は体幹(肩甲骨)と接合しており、腕を身体に引きつける(脇を閉める)作用があります。
このため、腕相撲(アームレスリング)のための上腕三頭筋トレーニングは、実戦に近いポジションで筋肉に負荷をかけられるディップス系トレーニングで行うのが一般的です。

ディップスはこの図のように、しっかりと肩甲骨を寄せるとともに脇をしめて行います。
この2つのポイントができていないと、肩関節に過剰な負担がかかりますので注意してください。
⑥回旋筋腱板

肩関節の固定にとって重要なのが回旋筋腱板(ローテーターカフ)です。
このインナーマッスルは肩甲骨と上腕骨をつないでおり、肩関節の動作に強く関与します。そして、この筋肉の強さは肩関節のブレを防ぐことに直結します。
腕相撲(アームレスリング)において、肩での数ミリのブレは、手先では数センチのブレに増幅します。もちろん、手先で数センチもブレてしまうと勝つことは難しくなります。
大きな表層の筋肉は誰しもが鍛えるので差がつきにくいですが、深層のインナーマッスルは見落とされがちですので、実際のところローテーターカフの強さが勝敗を左右することも少なくありません。
ローテータカフのトレーニングには以下のようなやり方があります。
インターナルローテーション
インターナルローテーションはローテーターカフのなかでも、唯一肩甲骨前面に位置する肩甲下筋に高い効果のあるトレーニング種目です。
反動を使うと、大胸筋や三角筋といった表層の筋肉に負荷が逃げてしまいますので、しっかりと肘の位置を固定し、肩関節の回旋だけで動作を行ってください。
また、ダンベルを使ってインターナルローテーションを行うこともできます。
エクスターナルローテーション
エクスターナルローテーションはローテーターカフ(回旋筋腱板)のなかでも肩甲骨背面に位置する棘上筋・棘下筋・小円筋に効果のあるチューブトレーニングです。
反動を使うと、僧帽筋や広背筋などの背面の表層筋に刺激が逃げてしまいますので、しっかりと肘を固定するのがポイントです。
エクスターナルローテーションもダンベルで行うことが可能です。

とりあえず、ゴルフのための筋トレをスタートするのに便利なのが、このような強度の違うものがセットになったトレーニングチューブです。
写真のタイプは、筆者の運営するジムで実際に使っており、筆者運営ショップが品質確認輸入をしているMYDAYSトレーニングチューブです。
たいへん頑丈な作りをしているだけではなく、後述の各種前腕トレーニングアタッチメントが取り付けられる大型カラビナフックを標準装備しています。
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⑦三角筋

肩の筋肉である三角筋も腕相撲(アームレスリング)には必要となる筋肉部位です。
特に三角筋前部は大胸筋のサポートとして、三角筋後部は広背筋のサポートとして作用します。
トレーニングに関しては、大胸筋や広背筋のトレーニングのなかで同時に鍛えていけばよいでしょう
腕相撲の解説記事一覧

【腕相撲とアームレスリングの違い】ルールの有無とスタート打撃について
【腕相撲の基本技】トップロール(吊り手)とフック(噛み手)とサイドアタック(横倒し)
【腕相撲に必要な手首の強さ】技ごとに重要となる前腕筋の鍛え方
