「腕相撲に握力は関係ない」とはよく言われることですが、それは一般的に考えられている握力=クラッシュ力のことであり、ピンチ力やホールド力などの握力は腕相撲にとても重要です。
腕相撲に勝つために必要な握力の種類と鍛え方を、アームレスリング元日本代表・現日本アームレスリング連盟常任理事・レフリー委員長の筆者が解説します。
■腕相撲の二つの技
●トップロール(吊り手)とフック(噛み手)
アームレスリングには大きく二つの技があり、一つは「吊り手」とも呼ばれる「トップロール」、もう一つが「噛み手」とも呼ばれる「フック」です。もちろん、日常での腕相撲に応用することができます。
まずは、その二つのアームレスリングの技を、世界最高峰のプロ大会や世界選手権の動画からご紹介します。
トップロールの模範的動画
黄色のユニフォームを着たほうの選手がトップロールを使う選手ですが、まずは、この動画をじっくりとご覧ください。
アームレスリングの予備知識がない方にとっては予想外の方向・軌道への技だと思います。
一般的な方の「腕相撲のイメージ」は手首を巻き込んで、横方向に倒すものだと思いますが、トップロールでは自身の手の甲が上になる方向に手首をロールするとともに後ろ上方に相手の手を吊り上げ、そこから相手の指先→手首→肘の順に伸ばして斜め後方に倒していきます。
自身の一番強い部分「手首付近」で相手の一番弱い部分「指先」を攻撃するのですから、倍以上の筋力差があっても倒せてしまいます。
フックの模範動画
こちらは、むかって右側の選手が使うフックがきれいに決まって勝利している動画です。フックは一般的な方の「腕相撲の概念」に近いテクニックで、一見すると単に手首を巻きつけて横向きに倒しているように見え、技ではなく力任せに見えるはずです。
しかし、実際には組んだ手のなかでミリ単位の動きを必要とするテクニックであり、非常に多くのバリエーションがあります。
もっともスタンダードなフックが上の動画の「下噛み」と呼ばれるもので、スタートの瞬間に①拳を上方へ突き上げながらの前腕回外回旋(手の平が自分に向く方向の捻り)→②指先を数ミリ奥へ滑らせながら手首屈曲(ストローク)を行います。
これにより、相手の親指付け根は自身の手首の下敷きになった状態になります。一見すると互角の手首の巻き合いに見えますが、技が決まっているほうはミリ単位で「自分だけ噛んでいる(手首を巻いている)」に等しい状態となっています。
その後、横方向へ倒しますが、直線ではなく相手の親指を外側に倒す方向に捻りながら曲線軌道で倒します。アームレスリング業界では、この動きが雑巾を絞る動きに似ていることから「絞り倒す」とも表現します。
■腕相撲の技ごとに必要な握力
腕相撲の技ごとに要求される握力の種類は以下の通りです。
〇トップロール(吊り手)
トップロール(吊り手)は相手の親指を捕まえてコントロールすることが重要ですので、相手の親指をつまんで離さないピンチ力が最重要となります。
〇フック(噛み手)
フック(噛み手)は相手に吊られずに、なおかつ相手の拳全体を包んでコントロールすることが重要ですので、手が開くのを防ぐホールド力が最重要となります。
■腕相撲に必要な握力の鍛え方
●ピンチ力の鍛え方
ピンチ力とは指を伸ばした状態での握力のことで、いわゆる「つまむ力」のことです。不定形をしたものを掴むときに重要な力で、柔道・レスリングなどの対人コンタクト競技で重要となる力です。
このほかに、アームレスリングのトップロールでは極めて重要な筋力になります。
鍛え方は簡単で、数センチから10センチ以内の重量物をつまみあげる動作を繰り返すことで鍛えられます。
ピンチ力を鍛えるのに、もっとも身近で安価なのが、こちらのようなコンクリートブロックです。全体をつまんだり、一辺だけをつまんだりすることで、つまむ厚さも変えられるのでたいへん便利です。
また、こちらの動画のようにバーベルのプレートをつまみ上げるトレーニングも有名です。
・トップロール専用トレーニング器具
●ホールド力の鍛え方
ホールド力は手を保持する力で、特に指が伸びた状態での保持力に大きく関わります。多くの球技や、体操競技、クライミング競技、ウエイト競技などで重要な力です。
ホールド力を鍛えるのにおすすめなのが、バスケットボールを保持するトレーニングです。このほかにも、バーベルやダンベルのシャフトにスポンジなどを巻いて、グリップする太さを増すだけでもずいぶんホールド力のトレーニングになります。
さらに積極的にホールド力を鍛えたい方は、こちらの動画のような指立て伏せ(フィンガープシュアップ)がおすすめです。
・フック専用トレーニング器具
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執筆者情報
上岡岳
アームレスリング元日本代表
ジムトレーナー・生物学学芸員
JAWA日本アームレスリング連盟常任理事|レフリー委員長・広報広報部長
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