プッシュアップバーは、腕立て伏せの効果を高める自重での大胸筋トレーニングに欠かせない器具です。ホームセンターなどでも安価なものが入手可能ですが、しっかりと鍛えたいなら人間工学に基づいたスポーツメーカー製のものがおすすめです。そこで、各有名メーカーのノーマルタイプから斜め傾斜型・回転式・スライド式などさまざまなプッシュアップバーの種類と使い方を動画をまじえてご紹介します。
また、あわせて、筆者の運営するジムで実際に備品として使用しているActivWinner製プッシュアップバーのレビューも行っていきます。
目次
■プッシュアップバーの効果
●手首保護と稼働範囲の増加
プッシュアップバーの効果には大きく二つがあります。直接床に手をついて行う腕立て伏せでは、手首関節が90°に曲がった状態で負荷がかかるので関節を痛めがちですが、プッシュアップバーを使えば手首関節は真っ直ぐな状態のままになるので関節を痛めるリスクが少なくなります。これが、まず一つ目のプッシュアップバーの効果です。
また、プッシュアップバーを使った腕立て伏せは、通常の腕立て伏せよりも身体を深く下ろすことが可能になります。これにより、腕立て伏せのメインターゲットである大胸筋を最大伸展から最大収縮までの広い稼働範囲で鍛えることができ、より高いトレーニング効果を得ることができます。これが、二つ目のプッシュアップバーの効果です。
■まだあるプッシュアップバーの効果
●角度を変化させたり回数をカウントできるものもある
プッシュアップバーの効果は上述の二つの効果だけではありません。
プッシュアップバーのなかにはバーが回転して置き手の角度を自在に変化させたり、回数をカウントする機能がついていたりするものもあり、腕立て伏せトレーニングの幅を広げてくれます。
■プッシュアップバーが効果のある筋肉部位
●大胸筋はもちろん腹筋や背筋も鍛えられる
腕立て伏せは、大胸筋・三角筋・上腕三頭筋と言った「上半身の押す筋肉グループ」を主体に効果の高いトレーニング方法ですが、それ以外にも背筋群や腹筋群にも効果があります。それらの筋肉の構造と作用を簡単に解説します。鍛える前に、まず鍛える対象を理解することがトレーニング効果を出すためには何よりも大切です。
なお、鍛えるときの負荷・回数設定によりターゲットとなる筋繊維が異なりますが、それは以下のようになります。
①10~15回の反復で限界がくる負荷で鍛えると、速筋繊維が鍛えられ筋肥大を起します(男性および女性バストアップ向き)。
②20回以上の反復で限界がくる負荷で鍛えると、遅筋繊維が鍛えられ引き締め効果があります(肩こり解消・二の腕引き締め向き)。
※本記事では便宜上、前者の鍛え方を①、後者の鍛え方を②と表記します。
●大胸筋
大胸筋は、体幹上部前面に位置する筋肉で、主に「上部」「下部」「内側」「外側」に分けられます。その作用と特徴は、それぞれ以下の通りです。
・大胸筋上部
腕を斜め上方に押し出す作用があり、三角筋前部と強い共働関係を持ち、鍛えることで胸全体を上方に引き上げ、①男性ならば見栄えのよい胸周りになり、②女性ならばバストアップに効果があります。
・大胸筋下部
腕を斜め下方に押し出す作用があり、上腕三頭筋長頭と強い共働関係を持ち、鍛えることで胸全体のボリュームがアップします。このため、①男性の身体作りだけでなく女性のバストアップにも重要な部位です。
・大胸筋内側
腕を前方で閉じる作用があり、前鋸筋と強い共働関係を持ち、鍛えることで大胸筋全体が内側に寄り、①男性では谷間のくっきりとしたメリハリのある胸まわりになり、②女性にはバストを寄せる効果があります。
・大胸筋外側
腕を開いた上体で閉じる作用があり、小胸筋と強い共働関係を持ち、鍛えることで小胸筋との連動性が高まります。①男性の場合は大胸筋の筋力増大に、②女性にはバストアップに効果があります。
●三角筋
三角筋は前部・側部・後部の三部位に分けられ、それぞれ主に「腕を前に上げる」「腕を横に上げる」「腕を後ろに上げる」作用があります。鍛えることで、①男性では男らしい広い肩幅が得られ、②女性では肩こりの解消につながります。
●上腕三頭筋
上腕三頭筋は短頭と長頭(内側頭・外側頭)に分けられ、それぞれ「肘関節伸展」「肘関節伸展および上腕内転」作用があります。鍛えることで、①男性は太い腕になり、②女性は二の腕引き締め効果が得られます。
●腹筋群
腕立て伏せはその動作の間、体幹を真っ直ぐに維持する必要があることから、体幹維持作用がある腹筋群にも効果があります。なお、腹筋群は表面から順に腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋の四層構造をしており、それぞれ主に「体幹屈曲」「体幹回旋」「体幹回旋補助」「姿勢維持」の作用があります。
腹筋群を鍛えるためにも、腕立て伏せはお腹に力を入れ、体幹を真っ直ぐ維持したまま動作するようにするのが正しいやり方です。
●背筋群
背筋群は、腕立て伏せの主働筋群である大胸筋・三角筋・上腕三頭筋の拮抗筋(反対の作用を持つ筋肉)であることから、腕立て伏せ動作においてエキセントリック収縮を起こし、同時に鍛えられる部位です。
なお、背筋群は、広背筋・僧帽筋・長背筋群(脊柱起立筋・多裂筋・回旋筋など)から構成され、腕と肩甲骨を引き寄せるとともに、腹筋群と拮抗して体幹を伸展・維持する作用があります。
筋トレの呼吸法|筋トレの頻度|筋トレの順番|筋トレの回数設定|筋肉の名前と作用|筋肉の超回復期間|筋トレの食事例|筋トレの栄養学|男性の筋トレメニュー|女性の筋トレメニュー
■プッシュアップバーの具体的な使い方
●角度を変化させ大胸筋の上部・下部・内側を部位別に鍛える
今回、筆者が本記事執筆のために入手したのが、こちらのアクティブウィナー(ActiveWinner)製のプッシュアップバーです。なぜ、本機種を選んだかと言えば、通常のプッシュアップバーのグリップ部分が水平なのに対し、アクティブウィナー(ActiveWinner)製のプッシュアップバーは角度がついており、大胸筋を部位別に鍛えられると考えたからです。
それでは、具体的に大胸筋の上部・下部・内側を鍛えるプッシュアップバーの使い方をご紹介します。
●大胸筋上部を鍛えるプッシュアップバーの使い方
大胸筋上部を鍛えるためには、このようにプッシュアップバーをやや狭めに置き「逆八の字」に配置します(手前が低く奥が高くなるように置いてください)。通常の腕立て伏せよりもややヘソよりに手を置き、肘を外側に開くようにして腕立て伏せ動作をすることで、大胸筋上部を集中的に鍛えることが可能です。
また、その動作が手首に負担がかかることなくできるのも、グリップ部分が斜めになっているからでしょう。この動作理論は、近年ダンベルプレスのバリエーションとして注目を集めているリバースグリップダンベルプレス&ベンチプレスと同様になります。
●大胸筋下部を鍛えるプッシュアップバーの使い方
大胸筋下部を鍛えるためには、先ほどとは逆に、プッシュアップバーを置く幅を広くとり「八の字」に配置します。グリップの傾きも、先ほどとは逆に、手前が高く奥が低くなるようにすると効果的です。
●大胸筋内側を鍛えるプッシュアップバーの使い方
大胸筋内側を集中的に鍛えるためには、プッシュアップバーを写真のように肩幅程度の広さに配置します。ポイントは、肘を体幹に沿わせるように開かずに動作することで、これにより大胸筋内側に負荷が集中します。
●大胸筋外側を鍛えるプッシュアップバーの使い方
大胸筋外側に効果の高い腕立て伏せのバリエーションが、この動画のようなワイドグリッププッシュアップです。なお、動画はプッシュアップバーを使用しないものですが、もちろんプッシュアップバーを使用したほうが高い効果が得られます。
●三角筋を鍛えるプッシュアップバーの使い方
三角筋に効果の高い腕立て伏せが、この写真のような腰を大きく曲げたままで動作を行うパイクプッシュアップです。矢印の方向に身体を押し上げるイメージで行ってください。
●上腕三頭筋を鍛えるプッシュアップバーの使い方
上腕三頭筋を鍛えるプッシュアップバーの使い方としておすすめなのが、こちらの動画のようなベンチディップス形式での腕立て伏せです。肘をしっかりと引き寄せて動作を行うのがポイントです。
●高強度で大胸筋全体を鍛えるプッシュアップバーの使い方
プッシュアップバーを使って腕立て伏せを行うと、通常よりも可動域が広がるため効率的に大胸筋を鍛えることができますが、さらにハードに追い込みたい男性などにおすすめのプッシュアップバーの使い方が、上の写真のように台の上に置いて高さを増す方法です(今回は当ジムのダンベルプレートを使用しました)。
これにより、さらに身体を深く下ろせるようになるため、より一層強い負荷を大胸筋全体に加えることができます。
また、こちらの動画のように、足を台の上などに乗せて腕立て伏せを行うと、大胸筋に強い負荷をかけることが可能です。動画では、プッシュアップバーは使用していませんが、もちろん使用するのが理想的です。
●女性向きのプッシュアップバーの使い方
実際のところ、腕立て伏せが大胸筋に有効となる10~20回の反復回数を行える女性は多くはありません。筋力的に腕立て伏せができない、という女性におすすめな腕立て伏せのやり方が、この動画のような「膝つき腕立て伏せ」です。
動画の女性は、プッシュアップバーは使用していませんが、こちらも、もちろん使用したほうが効果は倍増します。
大胸筋上部に効果が高く、女性のバストアップ筋トレとしてたいへん有効な腕立て伏せのやり方が、足上げ腕立て伏せですが、一般的な女性には筋力的に困難なため、この動画のようなバランスボールを使った足上げ腕立て伏せがおすすめです。
このような方法で行うと、バランスボールの反発力が筋力の補助として作用するので、力の弱い女性でも足上げ腕立て伏せをすることが可能になります。
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■おすすめのプッシュアップバー
●今回の傾斜型プッシュアップバーは当ジム備品に採用
今回、入手したアクティブウィナー製プッシュアップバーは、グリップに角度がついているため、非常に多様な使い方ができますので、今後も当ジムの備品として、所属選手の日々のトレーニングにも使用していく予定です。
▼このプッシュアップバーの詳細レポート
【アクティブウィナー(ActiveWinner)プッシュアップバー】おすすめの理由と使い方|滑り止めと角度が最適
●アディダスプッシュアップバー
adidas(アディダス)プッシュアップバーADAC-12231
画像引用:Amazon
このほかにも、優れたプッシュアップバーはあります。続いて、ご紹介するのがこちらのアディダス製プッシュアップバーです。スタイリッシュなデザインで、リビングなどに置いていても違和感がありません。もちろん、耐久性などもスポーツブランド製なので間違いないありません。
●ナイキプッシュアップバー
NIKE(ナイキ) プッシュアップ グリップAT7003-023
画像引用:Amazon
次に、ご紹介するのが、こちらのナイキ製プッシュアップバーです。質実剛健でとがったデザイン・作りが、いかにもナイキといった感じです。こちらも人気のアイテムです。
●回転式プッシュアップバー
adidas【ADAC-11401】スイベルプッシュアップバー
画像引用:Amazon
そして、こちらが最新の人間工学に基づいてアディダスが開発した回転式のスイベルプッシュアップバーです。身体を下ろしたときにバーを回転させることにより、さらに大胸筋を最大伸展させることが可能です。
大胸筋には「腕を押し出す」「腕を前方で閉じる」という作用がありますが、これ以外にも「上腕を内旋させる」という作用もあります。この回転式プッシュアップバーは、「腕を押し出しながら上腕を内旋させる」動きにより、大胸筋を完全収縮させることが狙いなのです。
回旋式腕立て伏せに関しては、下記の記事で動画をまじえて詳しく解説していますので、是非ご参照ください。
▼関連記事
【回旋腕立て伏せ】大胸筋を絞りあげる回転式プッシュアップバー種目
●カウンターつきプッシュアップバー
La・VIE(ラ・ヴィ) カウンター付プッシュアップバー 3B-3033
画像引用:Amazon
最後にご紹介するのが、こちらのラ・ヴィのカウンターつきプッシュアップバーです。高反復回数で行うダイエット腕立て伏せなどに便利です。
なお、ここまでご紹介したプッシュアップバー各種のショップ別・メーカー別の比較は下記の記事をご参照ください。
▼プッシュアップバー比較カタログ記事
【プッシュアップバー】種類・メーカー別の効果と使い方|おすすめもご紹介
続いては、最新の人間工学に基づいて開発された、話題のプッシュアップバーをご紹介していきます。
■進化したプッシュアップバー・アイアンチェストマスター
●スライドして大胸筋を極限まで収縮させる
まずは、こちらの動画をご覧ください。ナチュラルボディービルダーの第一人者として知られるロン・ウィリアムス氏が考案した「アイアンチェストマスター」と名付けられた最新式の高機能プッシュアップバーです。
動画の通り、プッシュアップバーがレールに沿ってスライドすることにより、これまでの腕立て伏せでは実現不可能だった動き…フライ系の「腕を閉じる」動作も組み込めるようにしたものです。
腕立て伏せなどのプレス系大胸筋トレーニングでは、大胸筋上部・下部・外側を鍛えることはできますが、大胸筋内側は鍛えることができません。
それを可能にしたのが、このアイアンチェストマスターなのです。
クリッパー(Clipper) アイアンチェストマスター CP-122
画像引用:Amazon
●リップデッキシステム
また、スライド式プッシュアップバーに回転機能がついた最新のプッシュアップバーが、この動画のパーフェクトリップデッキシステムです。
Perfect Fitness パーフェクトリップデッキシステム
画像引用:Amazon
■自宅筋トレにおすすめのグッズ
プッシュアップバー以外にも、自宅筋トレの効率を高めてくれる器具グッズ類はまだまだたくさんあります。下記の記事で詳しくご紹介していますので、是非ご一読ください。
▼自宅用筋トレグッズの総合案内記事
【自宅筋トレにおすすめのグッズと器具】胸筋・腹筋・女性用など厳選紹介
■腕立て伏せの解説記事一覧
●低強度バリエーション
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●全身強化バリエーション
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押す筋トレにはリストラップを
上半身の押す筋トレにぜひとも使用したいのが手首を保護するリストラップと呼ばれる筋トレグッズです。多くの初心者は、まだ手首を保持する力が弱く、腕立て伏せなども先に手首が痛くなってしまい完遂できないケースが少なくありません。リストラップを使えば、最後まで筋肉を追い込むことができ、とても効率的に身体を鍛えていくことが可能です。
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執筆者情報
上岡岳
アームレスリング元日本代表
ジムトレーナー・生物学学芸員
JAWA日本アームレスリング連盟常任理事|レフリー委員長・広報広報部長
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