バーベルデッドリフトの基本的なフォームとやり方を解説するとともに、効果のある筋肉部位・種類やバリエーション・筋トレ目的別に最適な重量負荷・回数設定についてご紹介します。
目次
■バーベルデッドリフトが効果のある筋肉は?
●バーベルデッドリフトは背筋群と下半身に効果的
バーベルデッドリフトの効果のある筋肉部位は多岐にわたりますが、まずは背筋群=広背筋・僧帽筋・脊柱起立筋に効果的です。
また、上半身だけでなく下半身にも効果があり、なかでも大腿四頭筋・大腿二頭筋(ハムストリングス)・臀筋群を鍛えることができます。
■デッドリフトの平均重量
デッドリフトは学校や職場での体力測定の対象ではないので、正確な平均値というのは存在しませんが、トレーニング業界の経験則として一般的に知られているのは「鍛えたことのない初心者のデッドリフト記録は自分の体重前後が標準」ということで、もう一つの指標として知られているのが「背筋力の半分が標準的なデッドリフトの挙上可能重量」ということです(いずれも男性の場合・女性はその60%前後)。
学校や職場での体力測定から推測された背筋力のおおよその平均値が下記の数値ですので、ご自身の年齢・性別・体重などから平均的なデッドリフトの挙上重量を推測してみてください(現行の体力テストでは背筋力は測定項目ではなくなっているので公的な記録はありません)。
○背筋力の平均値(デッドリフトはこの半分)
18~25歳:男性140~145kg・女性80~85kg
26~40歳:男性135~140kg・女性80~85kg
41~45歳:男性125~130kg・女性75~80kg
46~50歳:男性115~120kg・女性65~70kg
なお、筋トレ中級者で体重の1.5倍、上級者で2倍、パワーリフティング選手で2.5倍以上が標準的な目安です。
■デッドリフトの世界記録
また、デッドリフトの世界記録や日本記録はIPF(世界パワーリフティング協会)の公式ルール・公式戦のものが厳密には記録になります。その数値は男性で世界記録397.5kg、日本記録302.5kgです(2018年7月現在)。
なお、公式ルール外のデッドリフト大会・イベントでの世界記録は500kgです。ただし、ウエイトはタイヤ状のものでリストストラップも使用可能なので、公式ルールとは挙上距離や条件が大きく異なります。
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■バーベルデッドリフトのやり方と効果的なフォーム
デッドリフトには数多くのバリエーションがありますが、主に二つのスタイルが主流で、それはヨーロピアンスタイルとスモウスタイルです。
●背筋トレーニングならヨーロピアンスタイル
ヨーロピアンスタイルのデッドリフトは、コンベンショナルデッドリフトとも呼ばれ、肩幅程度に開いた両足の外側をグリップするやり方です。
このスタイルは、背筋を使う比率が高いため、単にデッドリフトを背筋トレーニングとして行うのであれば、ヨーロピアンスタイルのほうがおすすめです。
また、日本人選手には少ないですが、特に手の長い欧米選手のなかには、こちらのスタイルで試合・試技を行う方もいます。
ヨーロピアンデッドリフトの正しいフォームを示したのがこちらの画像ですが、そのポイントは、胸を張ること、尻を突き出すこと、背中は真っ直ぐかやや反らせること、膝がつま先より前に出ないこと、上を見ることです。
このようなフォームを維持し、床からバーベルを引き上げていきますが、その軌道はできるだけ体幹に近く、すらわち、脛と腿をこすりながら上げるのが正しいやり方です。
また、引き上げたバーベルを床に戻すときは、尻を斜め後方に(椅子に座るように)移動させることが大切です。
デッドリフトは高重量で爆発的に背筋を鍛える反面、間違ったフォームで行うと腰椎や膝関節に爆発的な負担がかかります。
「背中を丸めない」「膝を突き出さない」の二点だけは、常に忘れず意識してください。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①足を肩幅程度に開き、胸を張り、膝がつま先よりも前に出ないように少しお尻を引いて、足の外側でシャフトをグリップする
②背中が丸くならないよう、上を見て、まずは脚力で床からバーベルを浮かせる
③バーベルが浮いたら、背中の筋力も使ってバーベルを引き上げていく
④バーベルを引き上げたら、肩甲骨を寄せきって背筋群を完全に収縮させる
⑤ある程度、筋力でコントロールしながら元に戻る
●重量を狙うならスモウスタイル
スモウスタイルのデッドリフトは、高重量を狙うパワーリフターに多用されるバリエーションで、大きく開いた両足の内側をグリップすることをが特徴です。
このスタイルは、背筋だけでなく半分近くは下半身の筋力で挙上を行います。このため、トレーニングの組み方として下半身のトレーニングとの兼ね合いが難しく、リフティング目的以外の一般的なトレーニーにはあまりおすすめしません。
やり方・フォームのポイント、胸・背中・尻の位置関係や挙上軌道は、先ほどのヨーロピアンスタイルに準じますが、膝とつま先の関係には特別に注意が必要です。
膝がつま先より前に出ないことは基本ですが、スモウスタイルではつま先の向きと膝の向きとを同じにすることが非常に重要です。
具体的には、スモウスタイルのデッドリフトでは、つま先を外に向けて開きますが、動作中は膝を常につま先と同じ向きにする意識を保ってください。
内股になったりガニ股になったりすると、非常に強い捻れ負荷が膝にかかりますので、かなり危険です。
スモウスタイルのデッドリフトに挑戦する方は、事前に軽い重量でフォーム練習を十分に行ってからチャレンジしましょう。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①足を大きく開き、胸を張り、膝がつま先よりも前に出ないように少しお尻を引いて、足の内側でシャフトをグリップする
②背中が丸くならないよう、上を見て、まずは脚力で床からバーベルを浮かせる
③バーベルが浮いたら、背中の筋力も使ってバーベルを引き上げていく
④バーベルを引き上げたら、肩甲骨を寄せきって背筋群を完全に収縮させる
⑤ある程度、筋力でコントロールしながら元に戻る
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■デッドリフトのグリップについて
高重量のデッドリフトでは動作が安定するオルタネイトグリップ=片手がノーマルグリップ・片手がリバースグリップで行うのが一般的です。オルタネイトグリップに関する詳細は下記の記事をご参照ください。
▼関連記事
【オルタネイトグリップ】高重量を挙上する時に使用したいバーベルの保持方法
■バーベルデッドリフトの目的別の重量負荷設定
筋トレで鍛える骨格筋を構成している筋繊維には以下の三種類があり、それぞれの特徴は次の通りです。
①速筋繊維TYPE2b
約10秒前後の短い時間に爆発的・瞬発的な収縮をする特徴があり、トレーニングにより強く筋肥大します。10回前後の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
②速筋繊維TYPE2a
10~60秒ほどのやや長時間で瞬発的な収縮をする特徴があり、トレーニングによりやや筋肥大します。15回前後の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
③遅筋繊維TYPE1
60秒以上数分・数時間の持続的・持久的な収縮をする特徴があり、トレーニングにより筋肥大せずに筋密度が上がります。20回以上の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
つまり、筋肥大バルクアップ目的なら①、細マッチョ筋トレや女性の部分ボリュームアップ目的なら②、減量引き締めダイエット目的なら③、の負荷回数設定で筋トレを行っていきます。ただし、腹筋郡・前腕筋郡・下腿三頭筋など日常での使用頻度が高い部位は、基本的に20回以上高反復回数で鍛えます。
なお、リフティング目的で行う場合は、さらに高負荷の4~6回の反復回数で限界がくるような重量回数設定でトレーニングを行いますが、自己流の高重量デッドリフトはとてもリスキーです。専門知識のあるトレーナーや指導者のもとで実施してください。
■デッドリフトの種類やバリエーション
●デフィシットデッドリフト
デフィシットデッドリフトは、台の上に乗ることで、さらに深いレンジまでしゃがみこんで鍛えることのできるバリエーションで、パワーリフターの方が好んで行うやり方です。
ただし、深くしゃがみこんだポジションで主に負荷がかかるのは下半身の筋肉ですので、背筋のトレーニングとしてデッドリフトに取り組む一般的なトレーニーの方には、あまり必要のないバリエーションです。
●ハーフデッドリフト
ハーフデッドリフト(ブロックデッドリフト)は、パワーラックや台を利用してフルレンジのデッドリフトの上半分だけを反復するバリエーションで、トップサイドデッドリフトとも呼ばれます。
下半身に多くの負荷がかかるデッドリフトの下半分の動作をあえて省くことで、背筋群だけにトレーニングを集中させることができます。
特に、下半身のトレーニングは背筋のトレーニングと分けたい、一般的なトレーニーにおすすめの方法です。
●スティッフレッグドデッドリフト
スティッフレッグドデッドリフトは、膝をほとんど曲げずに行うのが特徴で、肩幅程度に開いた両足の外側をグリップして行います。
デッドリフトのバリエーションの一つですが、背筋群にはあまり負荷がかからず、太もも裏面のハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)および臀筋群を集中的に鍛えるのに適しています。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①足幅を肩幅程度にとり、胸を張りお尻を突き出し、膝を伸ばしたまま足の外側でシャフトをグリップして構える
②膝を伸ばしたまま、目線を上に向けてバーベルを持ち上げる
③腰が真っ直ぐになるまでバーベルを持ち上げたら、ハムストリングスにストレッチをかけながらゆっくりとバーベルを下ろす
●チューブデッドリフト
チューブデッドリフトは、レジスタンスゴムバンドやトレーニングチューブの負荷を追加して、バーベルデッドリフトを行うバリエーションです。
トレーニングチューブにはゴム特有の暫増負荷特性(伸びるほど負荷が増える特徴)がありますので、特にトップサイドで負荷がかかり、より高強度で背筋群を追い込むことが可能です。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①胸を張って背すじを真っ直ぐにし、腕を伸ばしてトレーニングチューブを保持して構える
②膝がつま先よりも前に出ないように注意し、お尻を突き出して前傾姿勢を作りながら手をを床に下ろしていく
③手を低く下ろしたら、同じ軌道で立ち上がりながらトレーニングチューブを引き上げていく
④トレーニングチューブを引き上げたら、肩甲骨をしっかりと寄せて背筋群を完全に収縮させる
●スミスマシンデッドリフト
スミスマシンデッドリフトは、大きく足を広げて足と足の間をグリップするスモウスタイルもありますが、これは下半身の筋力も動員する競技デッドリフトの練習の意味合いが強いので、背筋のトレーニング目的であれば手幅を広くとり、手と手の間に足を肩幅程度に置くヨーローピアンスタイルがおすすめです。
デッドリフト系トレーニングは高負荷で鍛えられる反面、フォームを間違えると腰や膝を痛めるリスクが高いので注意が必要です。
スミスマシンデッドリフトの基本的なフォームの注意点は以下の通りです。
・胸を張る
・お尻をつき出す
・背中を反らせる
・やや上を見る
これらの基本フォームを常に意識して行ってください。特に背中を丸めると非常にリスクが高まりますので注意してください。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①足首にバーが当るくらい前進し、その位置でシャフトをグリップして構える
②まず脚力でバーを引き上げていき、ウエイトが床から上がったら背中の筋力で引き上げていく
③バーを引き上げたら、肩甲骨をしっかりと寄せて背筋群を完全に収縮させる
④ゆっくりと筋肉に負荷をかけながら元に戻る
●スミスマシンルーマニアンデッドリフト
膝を軽く曲げた状態で行うルーマニアンデッドリフトは、背筋群だけでなく、下半身後面(ハムストリングス・臀筋群)への負荷比率が高いバリエーションです。
●スミスマシンスティッフレッグドデッドリフト
完全に膝を伸ばした状態で行うスミスマシンスティッフレッグドデッドリフトは、負荷の大半が下半身後面にかかる、女性のヒップアップトレーニングとしても人気のバリエーションです。
●ダンベルデッドリフト
バーベルデッドリフトはそれなりの経験値がなければ、上手くフォームをとれませんが、それは自身の重心(ヘソ)とバーベルの重心(シャフト中心)を垂直に合わせるのに、膝とシャフトが干渉するからです。
ダンベルデッドリフトは、膝と下半身が干渉することなく、身体の横側にウエイトを構えられるため、比較的難易度の低いデッドリフトのバリエーションです。
ただし、気をつけないと膝がつま先より前に出やすいので、常に「膝を出さない」意識を持って動作を行ってください。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①胸を張って背すじを真っ直ぐにし、腕を伸ばしてダンベルを持って構える
②膝がつま先よりも前に出ないように注意し、お尻を突き出して前傾姿勢を作りながらダンベルを床に下ろしていく
③ダンベルを床に着く直前まで下ろしたら、同じ軌道で立ち上がりながらダンベルを引き上げていく
④ダンベルを引き上げたら、肩甲骨をしっかりと寄せて背筋群を完全に収縮させる
●ケトルベルデッドリフト
ケトルベルを使ったデッドリフトはスモウスタイルでも、バーベルのようにシャフトと膝下が干渉してしまうことのがないため、比較的効かせやすいバリエーションです。
膝の向きとつま先の向きを揃えることを忘れずに行いましょう。
■トップアスリート執筆記事
なお、下記の記事はパワーリフティング元全日本王者の方が、デッドリフトに関して詳しく解説した最新記事です。是非ご一読ください。
▼アスリート執筆記事
【デッドリフトのやり方とフォーム】種類別に効果的なセットメニューを元全日本王者が解説
■デッドリフトにおすすめの筋トレグッズ
●リストストラップ・パワーベルト・ハイソックスがおすすめ
パワーリフティングの公式試合では、競技規定によりリストストラップやパワーグリップは使えませんが、一般的なトレーニーにはこれらがおすすめです。
デッドリフトトレーニングでは、背筋力よりも先に握力が弱ってしまい「バーベルをグリップできなくて追い込めない」ということが少なくありません。ぜひリストストラップやパワーグリップを併用して、質の高い背筋トレーニングを完遂してください。
なお、高重量でデッドリフトを行うのであれば、よりグリップ力の強いリストストラップを、自重前後のデッドリフトを行うのであれば、着脱のスピーディーなパワーグリップがおすすめです。
腰を保護するだけでなく、腹圧を高め最大筋力を向上させてくれるトレーニングギアがトレーニングベルトです。バーベル筋トレにおいては、ほぼ必須のギアとも言えますので、ぜひ入手することをおすすめします。なお、トレーニングベルトはトレーニーにとって「筋トレの友」とも言える存在になってきます。はじめから安易なものを選ばずに、考えているよりもワンランク・ツーランク上のものを入手することがベルト選びの秘訣です。
バーベルスクワットでは自身の重心とバーベルの重心を垂直に合わせるのが大切ですが、そのためには脛や膝を擦り上げるような軌道での挙上が必要になります。
擦り傷を予防するとともに、摩擦抵抗を軽減する働きのあるハイソックスは、デッドリフトの必需品で、パワーリフティングの試合でも着用が義務づけるれているほどです。
なお、一般的なハイソックスでは数度のトレーニングで破れかねませんので、おすすめは専門品の一択です。
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■バーベルトレーニングの基礎知識
●バーベルトレーニングの長所と短所
バーベルトレーニングは全てのウエイトトレーニングの基本となる筋トレ方法で、全身を高負荷で鍛えられ、なおかつ動作軌道のブレやズレを自身で支える必要があるため、体幹インナーマッスルも強くなるというメリットがあります。
このため、中級者~上級者には必須のトレーニング方法と言えます。反面、マシントレーニングのように軌道が決まっていないため、フォームや動作を習得するのには正確な指導を受け、慣れと経験が必要になります。
バルクアップ筋肥大・減量ダイエットいずれの目的の場合でも、いずれは習得したいトレーニング方法と言えます。
なお、他のバーベルトレーニングメニューについては、下記の種目別解説記事をご参照ください。
■バーベルトレーニング全種目一覧
筋トレの食事メニュー例
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執筆者情報
上岡岳
アームレスリング元日本代表
ジムトレーナー・生物学学芸員
JAWA日本アームレスリング連盟常任理事|レフリー委員長・広報広報部長
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