自宅でのプレス系自重トレーニングの基本種目とも言える「腕立て伏せ」のやり方と、各バリエーション種目をご紹介します。
目次
■腕立て伏せが効果のある筋肉
●大胸筋を中心に三角筋と上腕三頭筋に効果がある
腕立て伏せは、上半身の押す筋肉である大胸筋(胸の筋肉)を中心として、三角筋(肩の筋肉)や上腕三頭筋(二の腕裏側の筋肉)に対して効果があります。
各筋肉の構造と腕立て伏せの効果をさらに詳しく解説していきます。
●大胸筋
大胸筋は、体幹上部前面に位置する筋肉で、主に「上部」「下部」「内側」「外側」に分けられます。その作用と特徴は、それぞれ以下の通りです。
・大胸筋上部
腕を斜め上方に押し出す作用があり、三角筋前部と強い共働関係を持ち、鍛えることで胸全体を上方に引き上げ、①男性ならば見栄えのよい胸周りになり、②女性ならばバストアップに効果があります。
・大胸筋下部
腕を斜め下方に押し出す作用があり、上腕三頭筋長頭と強い共働関係を持ち、鍛えることで胸全体のボリュームがアップします。このため、①男性の身体作りだけでなく女性のバストアップにも重要な部位です。
・大胸筋内側
腕を前方で閉じる作用があり、前鋸筋と強い共働関係を持ち、鍛えることで大胸筋全体が内側に寄り、①男性では谷間のくっきりとしたメリハリのある胸まわりになり、②女性にはバストを寄せる効果があります。
・大胸筋外側
腕を開いた上体で閉じる作用があり、小胸筋と強い共働関係を持ち、鍛えることで小胸筋との連動性が高まります。①男性の場合は大胸筋の筋力増大に、②女性にはバストアップに効果があります。
●三角筋
三角筋は前部・側部・後部の三部位に分けられ、それぞれ主に「腕を前に上げる」「腕を横に上げる」「腕を後ろに上げる」作用があります。鍛えることで、①男性では男らしい広い肩幅が得られ、②女性では肩こりの解消につながります。
●上腕三頭筋
上腕三頭筋は短頭と長頭(内側頭・外側頭)に分けられ、それぞれ「肘関節伸展」「肘関節伸展および上腕内転」作用があります。鍛えることで、①男性は太い腕になり、②女性は二の腕引き締め効果が得られます。
■腕立て伏せの目的別の重量負荷設定
筋トレで鍛える骨格筋を構成している筋繊維には以下の三種類があり、それぞれの特徴は次の通りです。
①速筋繊維TYPE2b
約10秒前後の短い時間に爆発的・瞬発的な収縮をする特徴があり、トレーニングにより強く筋肥大します。10回前後の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
②速筋繊維TYPE2a
10~60秒ほどのやや長時間で瞬発的な収縮をする特徴があり、トレーニングによりやや筋肥大します。15回前後の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
③遅筋繊維TYPE1
60秒以上数分・数時間の持続的・持久的な収縮をする特徴があり、トレーニングにより筋肥大せずに筋密度が上がります。20回以上の反復回数で限界がくる重量設定で鍛えます。
つまり、バルクアップ目的なら①、細マッチョや女性の部分ボリュームアップ目的なら②、引き締めダイエット目的なら③、の負荷回数設定で腕立て伏せを行っていきます。
■腕立て伏せの種類とやり方
●大胸筋全体に効果のある基本的な腕立て伏せ
動作中、体幹は真っ直ぐに保つようにするのがコツです。お腹が突き出したり、背中が曲がっては効率的に大胸筋を刺激することができません。
この図のように、手の置く位置は、肩幅よりやや広くし、肩関節から頭より(上方向)には絶対に置かないようにしましょう。肩関節損傷の原因となります。また、やや足側(下方向)に手を置くのが正しいやり方とコツです。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①肩幅より少し広く手を置き、肩甲骨をしっかりと寄せ、背すじを真っ直ぐにして構える
②肩甲骨を寄せたまま、背すじも真っ直ぐに保って身体を下ろす
③身体を下ろしたら、反動を使わずに肘を伸ばして身体を押し上げる
④身体を押し上げたら、少し顎を引いて大胸筋を完全に収縮させる
※動作中は、お腹を突き出したり、腰を曲げたりしないように注意してください。
●大胸筋内側と上腕三頭筋に効果的なナローポジション
まずは、こちらの画像のように、両手の親指と人差し指で菱形=ダイヤモンドを作ります。これにより、手幅の狭い状態でも手首への負担が軽減されます。
親指と人差し指でひし形を作りナロースタンスで行うダイアモンドプッシュアップは上腕三頭筋に効果の高い自重トレーニングです。肘をなるべく開かずに行うことで上腕三頭筋に負荷が集中します。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①親指と人差し指で菱形を作って手を置き、肩甲骨をしっかりと寄せ、背すじを真っ直ぐにして構える
②肩甲骨を寄せたまま、背すじも真っ直ぐに保って身体を下ろしていく
③身体を下ろしたら、反動を使わずに肘を伸ばして身体を押し上げる
④身体を押し上げたら、上腕三頭筋を完全に収縮させる
※動作中は、お腹を突き出したり、腰を曲げたりしないように注意してください。
●大胸筋外側と三角筋に効果的なワイドポジション
ナローポジションとは逆に、ワイドに手を構えると、大胸筋外側と三角筋に強い刺激を与えることができます。動作の注意点は肩甲骨を寄せたまま動作を行うことで、ポイントは反動を使わないことです。肩甲骨を開放したり、反動を使うと、三角筋に過剰な負荷がかかり、肩関節損傷の原因となります。
●大胸筋上部に効果的な足上げ腕立て伏せ
こちらのように、足を台などの上において腕立て伏せを行うと、大胸筋上部に強い刺激が与えられます。
足上げ腕立て伏せ(デクラインプッシュアップ)は大胸筋のなかでも上部に効果的な自重トレーニングです。大胸筋上部の筋繊維は、斜め縦方向に走っており、最大収縮させるためには「腕を斜め上方に押し出す動作」が必要になります。
足上げ腕立て伏せ(デクラインプッシュアップ)は、この「腕を斜め上方に押し出す動作」の軌道で行うため大胸筋上部に非常に有効なのです。
また、お腹を突き出すと、腕を押し出す角度が普通の腕立て伏せと同じになってしまい、足を上げている意味がなくなりますので注意してください。どちらかと言えば、腰をやや引き「への字」の体勢で行うほうが大胸筋上部には効果的です。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①肩幅より少し広く手を置き、足を台などの上に乗せ、肩甲骨をしっかりと寄せて、背すじを真っ直ぐにして構える
②肩甲骨を寄せたまま、背中を反らせたり、お腹を突き出したりせずに身体を下ろす
③身体を下ろしたら、肘を伸ばして身体を元の高さまで押し上げる
④身体を押し上げたら、少し顎を引いて大胸筋をしっかりと収縮させる
●大胸筋下部と上腕三頭筋に効果的なリバースプッシュアップ(ベンチディップス)
こちらのようなベンチディップスは大胸筋下部と上腕三頭筋に強い負荷を加えられます動作のコツは、肘を開かないことです。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①身体の後ろ側で手をつき、肩甲骨をしっかりと寄せて構える
②肘が開かないように脇をしめ、身体を真下に下ろす
③上腕が床と並行になるまで身体を下ろしたら、肩甲骨を寄せたまま、同じ軌道で身体を押し上げる
また、この画像のように、椅子を二つ使用することで、さらに強度の高いリバースプッシュアップの一つ「ディップ」を自宅で行うことが可能になります。
●斜め腕立て伏せ(インクラインプッシュアップ)
こちらがインクラインプッシュアップの模範的な動画で、ポイントは腰を突きだしたり背中を丸めないことです。
腰を突きだしたり背中を丸めたりすると、せっかくの斜め下に腕を押し出す軌道が通常の腕立て伏せとかわらなくなりますので、どちらかと言えば、少しお腹を突きだすくらいのイメージで行うとよいでしょう。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①肩幅より少し広くとって台に手を置き、肩甲骨をしっかりと寄せ、背中を真っ直ぐにして構える
②肩甲骨を寄せたまま、背すじも真っ直ぐに保って身体を下ろす
③身体を下ろしたら、反動を使わずに肘を伸ばして身体を押し上げる
④身体を押し上げたら、やや顎を引いて大胸筋をしっかりと収縮させる
●膝つき腕立て伏せ
膝つき腕立て伏せは、運動が苦手で腕立て伏せができない人でも簡単に行えて、腕立て伏せ同様の効果が得られる自重トレーニングです。
【本種目のやり方とフォームのポイント】
①うつ伏せになり、手幅を肩幅より少し広く置き、膝をついて、背中を真っ直ぐにして構える
②肘が手首の真上になるように注意し、身体をおろす
③息を吐きながら身体を押し上げ、最後に顎を引いて大胸筋をしっかりと収縮させる
●バストアップにも効果的な膝上げ腕立て伏せ
膝を台などに乗せて行う膝あげ腕立て伏せは、大胸筋の作用する方向が斜め上になるため、大胸筋のなかでも上部に効果が高くなります。
大胸筋上部が発達すると、男性の場合は盛り上がり感のある見栄えのよい胸周りになり、女性の場合はバストアップにたいへん効果的です。
●腕の引き締めにも効果的なダイヤモンド膝つき腕立て伏せ
こちらが手幅を狭くし親指と人差し指で菱形を作って行うダイヤモンド膝つき腕立て伏せです。
このフォームで行うと負荷の多くは上腕の後ろ側の筋肉・上腕三頭筋にかかります。筋肥大の反復回数で行うと腕を太くするのに効果的で、引き締めの反復回数で行うと二の腕ダイエット筋に最適な種目です。
●前鋸筋を鍛える特殊な腕立て伏せ
大胸筋の共働インナーマッスルである前鋸筋は「肩甲骨が固定された状態」で腕を前に押し出す動作をすることで最大収縮します。このため、前鋸筋を鍛えるためには、動画のような腕を曲げず肩甲骨を固定した腕立て伏せをする必要があります。
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■自重トレーニングにおすすめの器具類
●プッシュアップバーと懸垂器具
腕立て伏せ系のトレーニングをするのに、ぜひとも用意したいのがプッシュアップバーです。手首を真っ直ぐに保てるので関節を保護できるだけでなく、動作の可動域自体が広がるため、トレーニングの効果が倍増します。
▼おすすめのプッシュアップバー
【プッシュアップバー】種類・メーカー別の効果と使い方|おすすめもご紹介
本格的に自宅筋トレを始めるならば、まず揃えたいのが懸垂ラック・装置です。懸垂だけでなく腕立て伏せ・ディップ・腹筋など、一通りの自重トレーニングができるチンニングラックから簡易的にドア部分に取り付けるものまで、さまざまなタイプがあります。
▼おすすめの自宅懸垂器具
【おすすめ自宅背筋トレーニング器具】各メーカーの懸垂ラックや懸垂装置紹介
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■自重トレーニングにおすすめの筋トレグッズ
●手首保護にリストラップを
押す筋トレではどうしても手首に強い負担がかかってしまいますので、リストラップはぜひとも使用したいアイテムです。そして、入手するのであれば、普及品とは違い屈強なサポート力のあるリストラップを強くおすすめします。
▼リストラップとは?
【おすすめのリストラップ】初心者むけに使いやすい長さやリストストラップとの違いも解説
●握力補助にパワーグリップを
上半身の引く筋トレで初心者の方に多く見られるのが「先に握力がなくなって追い込めない」というケースです。筋トレは101%で行ってはじめて成果がでます。パワーグリップを使用して引くトレーニングの効率を上げることをおすすめします。
▼パワーグリップとは?解説記事
【おすすめのパワーグリップ】使い方の解説と男性・女性どちらにも快適なアイテム紹介
■おすすめの記事
【自重トレーニングメニュー】限界突破の最強筋肥大筋トレを解説
■自重トレーニングの基礎知識
●自重トレーニングの長所と短所
自重トレーニングは器具が必要ないため、いつでもどこでも手軽に取り組めるのがメリットです。
一方、自重トレーニングには複数の筋肉・関節を同時に動かす複合関節運動(コンパウンド種目)しかなく、個別の筋肉を単関節運動(アイソレーション種目)で集中的に鍛えるのが難しいというデメリットがあります。
ですので、自重トレーニングの後に仕上げとしてチューブトレーニングやダンベルトレーニングを行うのが理想と言えます。
●自重トレーニングの負荷の上げ方
自重トレーニングの負荷の上げ方には、主に以下の方法があります。
①動作をゆっくり行う
②重りを身体につける
③一番負荷のかかる位置(スティッキングポイント)で動作を一度静止する
なお、他の自重トレーニングメニューについては、下記の種目別解説記事をご参照ください。
■自重トレーニング種目一覧
筋トレの食事メニュー例
筋肉の名称と作用の図鑑
男性向きの記事|女性向きの記事
自宅での筋トレ|自宅での筋トレ
自重での筋トレ|自重での筋トレ
チューブ筋トレ|チューブ筋トレ
ダンベル筋トレ|ダンベル筋トレ
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下半身の筋トレ|下半身の筋トレ
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おすすめの筋トレグッズ
押す筋トレにはリストラップを
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筋トレの基本グッズはトレーニングベルト
腰を保護するだけでなく、腹圧を高め最大筋力を向上させてくれるトレーニングギアがトレーニングベルトです。筋トレにおいては、ほぼ必須のギアとも言えますので、ぜひ入手することをおすすめします。なお、トレーニングベルトはトレーニーにとって「筋トレの友」とも言える存在になってきます。はじめから安易なものを選ばずに、考えているよりもワンランク・ツーランク上のものを入手することがベルト選びの秘訣です。
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本格的トレーニングには高耐荷重ラック+オリンピックバーベル
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執筆者情報
上岡岳
アームレスリング元日本代表
ジムトレーナー・生物学学芸員
JAWA日本アームレスリング連盟常任理事|レフリー委員長・広報広報部長
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